写真:記事作成者(書籍『中山英之|1/1000000000』/LIXIL出版)
今回ご紹介させていただくのは、建築家中山英之さんの「1/1000000000(10億分の1)」という本になります。中山さんが建築を考えるときに考えられていること、建築とはなんなのかが、独特の視点で描かれています。私が建築ってなんなのだろうと考え始めた頃、たまたま書店で手に取った本だった気がします。自分に合っている考えが描かれ、ワクワクしたのを覚えています。
読者が想像を膨らませながら読み進めるような部分が多い印象でした。何度も読む手を止めながら、これはこうなのかなと自由に考えながら、読むと楽しいかもしれません!
私自身もこの本の内容を完璧に理解できたとは言えません。ですが、私なりの「こうなのでは!?」というものを伝えていければと思っています。
建築家 中山英之
まず、本のご紹介にあたり、建築家中山英之さんについて少し、みていきましょう。
経歴
1972年福岡県生まれ。
東京藝術大学卒・大学院修了後、伊東豊雄建築設計事務所で実践を積まれたそうです。
2007年:「中山英之建築設計事務所」を設立。
2014年:東京藝術大学准教授として教育にも携わっています。
代表作品
1.石の鳥の石(2016年)
この建築物は、香川県小豆島・草壁港に設置された公共トイレになります。島の花崗岩を使用するコンクリートとして練り込み、まさに島と一体化した建築として「島の記憶」を身体的に共有する空間になっています。
2.Printmaking Studio(2017年)
ベルギーの田舎町カステルレーにあるアーティスト・イン・レジデンスのスタジオ増築計画。ケーキにナイフを入れたような形状は、広大な敷地に合う顔を見せながらも、さまざまな場所に出会うような配置になっています。
中山英之|1/1000000000
それでは、本について紹介させていただきます。この本は、LIXIL出版の「現代建築家コンセプト・シリーズ」のひとつです。ちなみに、現代建築家コンセプト・シリーズでは、主に建築家の思想についての内容がまとめられています。他の建築家のシリーズもいくつか読んだことがあるのですが、それぞれの視点を知れるのはもちろん、本自体の構成も建築家によって大きく変わります。読む以外の楽しさもある本です。
今回のおすすめポイントは、こちら!
①絵本のような本
②建築の域を超えた内容
③「スケール」から見る独自の視点
①絵本のような本
1つ目のおすすめポイントが、「絵本のような本」ということです。
「はじめに」から始まるこの本では、挿絵が使われながら、問いかけをされる場面が多くあります。そして、読むと感じるのが、建築の専門的なことはほとんど描かれていないということです。
絵本とは?
ちなみに、私にとって絵本とはなんなのか?
私は、親が本が好きだったこともあり、小学校など小さな頃から本は自由に買って読ませてもらいました。今でもたまに、絵本を読む時がありますが、大人でも楽しめるもの、考えさせるものはたくさんあります。
そして、絵本は本が終わるまでの起承転結の中で、読者に何度も「問いかけ」をしてくるものが多かった気がします。もちろん個人的な好みもありますが、そういった本は子供ながらに引き込まれ、多く手に取ってきました。
そして、今回ご紹介する中山さんの本も、専門的な言葉はあまり使わず、問いかけ「どうでしょう?」「してみましょう!」のような、読者を一緒に本の内容に引き込むポイントが多くあり、書き手の意見を一方的に伝えられるのではなく、読者それぞれの視点も並行して考えられるようになっていると思います!
②建築の域を超えた内容
2つ目のおすすめポイントが「建築の域を超えた内容」です。
どういうこと?
①のおすすめポイントで、絵本のようで、専門的な言葉をあまり使わず、問いかける箇所が多く含まれていると紹介しました。このポイントからも、単に建築についての本ではないのか?と思った方もいるかもしれません。
では、どういった部分が建築の域を超えているのか。一緒にみていきましょう!
スケッチの多さ
まずは、手書きスケッチの多さです。
本書では、文章とともに著者が実際に書いたスケッチが多く添えられながら進んでいきます。
そのスケッチは、建築図面のような細かいものや、具体的なCGなどとも違う存在だと思います。建築自体の形状に目を当てるよりも、建築家中山英之さんの頭の中に焦点を当てたようなものだと感じました。
読者との重なり
次に、内容について見ると、読者自身の日常生活と重なる部分も多くあると思います。
例えば、「大きくて小さいこと」という見出しでの内容について少しご紹介させていただきます。ここでは、中山さん自身が日々の生活で感じたことが描かれており、
小さなスポーツカーを見ると、私たちは可愛いと感じます。リムジンカーを見るとちょっぴり威張ってるなあと思います。
引用:中山英之|1/1000000000「大きくて小さいこと」より
この文章を見た時、確かに!と思いました。この文章の後、日常に潜む違和感などについて描かれていくのですが、「あ、確かにな〜」「私は、あれは、こう感じたな〜」と自分の記憶を巡らせる人も多いことでしょう。
③「スケール」から見る独自の視点
3つ目のおすすめポイントは、『「スケール」から見る独自の視点』です。
この本は、まず、建築で必ず使われるスケール(縮尺)を色々な大きさの世界を頭の中で行き来できる魔法の分数として紹介され、話が進んでいきます。
いつ聞いたのか、何かで見たのか思い出せませんが、中山さんがこんなことを言っていたのを思い出しました。曖昧な記憶なのではっきりとしたものではありませんが、「模型を作ったときに、縮尺を書けば現実のものになる」のようなことをおっしゃっていた気がします。
スケールという魔法を使い世界の捉え方を説明されており、何かを捉えようとするときの「視点の転換」「捉え方の自由さ」などが、中山さんが考えていることではないのかな?と私個人的には想像しました。
そして、この捉え方について本の中で中山さんが引用されていた言葉がとても興味深く、私自身にも刺さるものだったためご紹介させてください。
あなたが「こうかもしれない」と思った瞬間、世界は何度でも新しくあらわれる。
(哲学者 マルティン・ハイデガー)
引用元:引用:中山英之|1/1000000000「世界があらわれる」より
この言葉は、人の心を動かし、想像の自由を与えてくれるものだと思います。本の内容、紹介されているプロダクトの端々で、中山さんの「こうかもしれない」と考えた試みを見させていただいた気がします。
最後に
今回、建築家中山英之さんによる、現代建築家コンセプト・シリーズ「中山英之|1/1000000000」を紹介させていただきました。
この本は、中山さんの建築に対しての向き合い方、そして世界の捉え方などを垣間見ることができる本だと思います。私自身が想像できない部分もあり、まだ上手く理解しきれていない部分が多くあると思います。しかし、建築を学んだことがない人にも読めるような内容であることは間違いないと思います。
本を読み切り、ぜひみなさまの生活について捉え直して見るのもいいかもしれません。
私たちはそれぞれの世界を自由に捉えなおすことができるのです!
ぜひ、この本を手に取って、実際に読んで体感してみてください!
<中山英之|1/1000000000>
著者:中山英之
出版社:LIXIL出版
現代コンセプト・シリーズ 25
発売日:2018年3月25日 第1刷発行
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